筆と響き Ⅱ
木立 悟





唾を唾で
瞳を瞳で抑えながら
においの無い人ごみは
鉄路に影を残してゆく


ひと粒の胡椒が
紙の上を転がり
拾おうとするたびに終わり
つまんでは落とし またはじまる


水に濡れた薄い布に
小さな稲妻が絶え間なく落ち
街と海の間の更地を
白い原に変えてゆく


風が砂に子らの絵を描き
それらが一斉に指さす方に
家々のすぐそばまで来た海と
長い金属の塀がつづく


軋む音 冷える音
隔たりをひとつの筆に引き
どこまでも終わらない水没の径
ずっとずっと 暮れのままの径


鉛に金を描くときの
端から崩れる心から
指へ指へ降る粉を
かがやかせるのは光ではなく


何処にゆき
何に会うのか
生きもののいない水に映るのは
かたちのようなかたちばかり


白と灰の重なりのなかを
金が幽かに見え隠れする
荒んだ明るさのむこうから
草の音だけが寄せては返す


















自由詩 筆と響き Ⅱ Copyright 木立 悟 2018-01-03 13:36:22
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