秘密
ただのみきや

少年は秘密を閉じ込める
美しい叔母のブローチをこっそり隠すように
部屋に鍵をかけ 歩哨さながら見張っていたが
閉ざせば閉ざすほど膨らんで行く 妄想は
秘密を太らせるのにはもってこいの餌だった

――もし知られたら 
   知ってもらえたなら きっと

やがてすっかり発酵 ふかふかに焼き上る
部屋ごと膨らんではち切れそう
口を開くたび 甘美で 淫靡な 
秘密が匂い立つようで
ああ鼓動!  内側から激しく叩く
――鍵?  つっかえ棒だけ
そう 扉を開けることができるのは
世界でただ一人 閉じ込めた自分だけ

そんなに時間はかからなかった 秘密は
共有された秘密となり 公然の秘密となり 
ガスのように薄められ 消えて行った
ひと時のカタルシス
少年の心はしぼんだ風船のよう
大切なものを失った というより
なんてつまらないものを仕舞い込んでいたのかと
いまいましくて 寂しかったから
人前では口角を上げて見せた
なにも答えない時の父のように




              《秘密:2017年12月20日》









自由詩 秘密 Copyright ただのみきや 2017-12-20 19:22:21縦
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