ただのみきや

雪を被ってすっかり閉ざされた
 枝の間 
小鳥は空を 
  ひと跳ね 
 ふた跳ね
すっ と吸われるように消える
とりあえず
生あるものは辺りから姿を消した訳だ
空を埋め尽くしていたあの雲が
今はこうして 冷たい真綿の布団
大地はうつらうつら 眠っている
ほとんど寝息を立てない女のよう


そんな景色を思い起こしては
 安物のウヰスキーを
  細く ゆっくり 流し込んで 
  鼻腔 のど 食道――胃への道すがら 
 灼熱感を堪能し
掛け軸のように眺めてばかり
――少々飽きて来た
    生も死もない四季との戯れに


もしも そこに
一匹のテンかイタチが
今しがた囀っていた小鳥を咥え
小さくても獣らしい
その口もとを血で濡らし
雪の畝に素早く
手品みたいに消えたなら

ああ血 その甘い
甘い一点の ふるえる疼きが
白い茫漠に消えない残像となって
心を幾つも捨て石に
追いかけもするだろう
己が半身を求めるように


口紅よりも 
 薔薇よりも
  今は血の赤 
   いのちの赤
    傷口の赤 
   痛みの赤
生と死の間に流れる赤 
  有無を言わせぬ
       原始の赤
        マグマのように熱を帯びた
     分かち与え 
        貪り奪う
  善し悪しにてられる前の
         白紙の上
           最初の
            沈黙の
             一撃の
        媚びることなくただ美しい 赤
                           
  でなけりゃ眺めるだけでいい
         書かなくたって酔うだけで




                《赤:2017年11月21日》








自由詩Copyright ただのみきや 2017-11-23 12:18:26
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