海が涸れる
Lucy

   
満ちていた
哀しみ あるいは痛みのように
煌めいて
昨日を潤し明日を照らす
零れ 滴り 流れ落ち
さらに溢れ
駆り立てる
とどめる術もない力で
押し寄せる波
こみ上げる欲望の
恐ろしい力とも戦った
けれど
海が涸れる
踵を返す後ろ姿
果てのない引き潮
干潟に張り付く海藻
二度と光に揺らがない
白々と黙るイルカの骨
巻貝
群れなす魚は
静止して泥に浸かり
宙を泳ぐ一匹の蝶が
視界に微かに煌めくとき
わたしは口をぱくぱく
風を鰓呼吸しようとして
わずかに身じろぎ
最後の詩情を振り絞り
あれは幻?
これが幻?
わたしという一人称を
空へ飛ばす
泥の中へ
埋める


自由詩 海が涸れる Copyright Lucy 2017-10-27 21:10:38
notebook Home 戻る