冬のオホーツク凍えながらたった一度でいい最後に私は意識の勝つのを見たかった
Lucy

黒い夜の画布を背に
彫刻刀で刻まれた白骨のように
浮かび上がる鋭い流氷の切っ先が
すばやく流れる雲の切れ間に
瞬時に現れた細い三日月を
祈りのように照らし出し

私が確かに聞いたのは
木造の廃船の
からっぽなはずの腹腔に
繰り返しこだまする波の音

かみさま
私は死んだほうが良いのです
己を殺す傲慢を
許して欲しいとは言いません
けれどもし
塵屑のような私にも
生きていく意味があるなら
御示しください
なすべき使命があるのなら
どうかお導きください

なけなしの弱さの最後の欠片のような
か細い願いを
三日月の姿した神は聞き入れたのだったろうか
不遜な自意識の死と引き換えに
手にしていたのはひとつの使命
それはぼろぼろの何の値打ちもない
塵屑のような人として
なお誇り高く
生命いのちを全うするということ





自由詩 冬のオホーツク凍えながらたった一度でいい最後に私は意識の勝つのを見たかった Copyright Lucy 2017-10-17 22:06:26
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