ウォー・ウォー、ピース・ピース
田中修子

「せんそうはんたい」とさけぶときの
あなたの顔を
チョット
鏡で
見てみましょうか。

なんだかすこし
えげつなく
嬉しそうに
楽しそうです。

わたしには見分けがつきません
せんそうをおこす人と
せんそうはんたいをさけぶ人の
顔。

ごぞんじですか、ヒトラーはお父さんに
憎まれて憎んでいたのだそうです。
それでお父さん殺しを
ユダヤ人でしたのだ、という説があります。
ヒトラーがお父さんに
ぎゅうっと抱きしめられていたら
あの偉大なかなしみは
起こらなかったのかもしれません。

お母さんこわい、あなたの顔はどこにいったの
ちかよらないで、わたしまで吸い込まないで。
(ウォー、ウォー、とわたしは泣き叫んだ)

あなたは幸せですか。
おうちのなかはきれいですか。
玄関のわきに花や木は植わっていますか。
メダカや金魚を飼ってもかわいいかもしれません。

あなたの子どもは
むりやりでなく、楽しそうにしていますか。

わたしにながれる
カザルスのチェロを
聴いてください。

(鳥はただ、鳴くのです
ピース、ピースと)

春、おばあちゃんが
フキを
薄口しょうゆでしゃっきりと煮て
きれいすぎてたからものばこに
隠しちゃいたい。

夏、おばあちゃんといっしょに
いいにおいのするゴザのうえで
お昼寝をします。
寝入ったころにさらりとしたタオルケットをかけてくれるの
ないしょで知っています。

秋、いそがしいお父さんが、庭の柿の木の落とした葉っぱをあつめ
たき火にして焼き芋を焼いてくれて
メラメラととても甘いのです。火の味です。

冬、ときたま雪だけが
ふわふわめちゃめちゃ生きていて
寒いだけだし
松の葉をおなかいっぱいに食べて冬眠しちゃいたい。
それでうっかり起きちゃってスナフキンと
冒険しにでかけるんだ。

そんなわたしも、お母さんになりました。

今日、じゅうたんを近くの家具屋さんに
買いに行きました。
薔薇とナナカマドの実で染めたような色をしているよ。

夕暮れの空を見ます。

水色とピンクと灰色が入り混じって
ひかっていました。

秋の虫がきれいに鳴いています。

わたしはわたしの顔をなくすことなく
あなたが羽ばたいてとんでゆくまで
このちいさな巣箱を
ふかふかにしていたいな。

ほんとうにたいせつなのは
静かに流れてゆく
はるなつあきふゆ
あたりまえにあってききおとされる
鳥や虫の鳴く。


自由詩 ウォー・ウォー、ピース・ピース Copyright 田中修子 2017-10-07 18:56:46縦
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