閉じた貝と空気の接点
まーつん


 
潮の満ち引きのような周期性を伴って、人々の感情が私の周りに波となって渦巻く。

例えるなら、私は砂浜に転がっている無数の二枚貝の一つだ。
灰色の雲の群れが、草を食む野生馬の群れのように、空の低い所にたむろしている。雲は景色に色を与える日光を遮り、人々は影となって紙でできた街をうろつく。心の滴がこぼれて広がる浸み。

蛇口の栓をひねっても鮮血しか出てこないので、私の喉は乾いている。コップは水切り棚のクロスの上で逆さのまま埃をかぶっている。キッチンの椅子に腰かけて波の音を聞いている。窓から注ぐ淡い光の向こうに海はないのに。

殻の中で夢を見る。
人の姿をかたどって夢の中に目覚め、小さな模様が無数に浮き沈みする壁紙を眺める。思い出すのは波、無数の小さな波が膨らんでは萎む海原の柔肌だ。母に抱かれてむずかる赤子のように、私は打ち寄せる波の上で震える。

いつか殻を開くとき…それは夢の終わり、死の始まりだ。


自由詩 閉じた貝と空気の接点 Copyright まーつん 2017-09-28 17:41:48
notebook Home 戻る  過去 未来