さわやかにわらう
水菜

放っておける人は、愛が深い人だと
昔聞いたわたしが、ひどく取り乱したのを
今のわたしは、ぼんやりおもいます

なにもかもひとの心も軽く流してしまうかのような
さわやかで清々しい風が
カーテンを遊びながらわたしの首筋を撫でて
わたし、ぼんやり窓のそとを眺めました

すこしお行儀悪く、窓枠に座ったわたしは
厚みのある窓枠に上半身を斜めに預けて
すっぽりと窓枠に収まります
片膝を立てて

木のにおいのする少し昭和漂う古い木枠の窓枠は
上下に上げ下げすれば窓が開くタイプになっていて
壁にびっしりはめ込まれた本棚と小さな机と大きな窓枠だけの何もない2階の部屋で

わたし、そうやって窓枠から外を眺めることが好きでした

お砂糖なしのハンドドリップで丁寧に蒸らしながら入れたばかりのコーヒーはひどくそこからの景色に似合いで

コーヒーの柔らかな香りが風ととけていくようでした

わたし、お気に入りだったんです


2階の窓から見える景色は、広い水平線
窓のすぐ近くまで伸び切った新緑の葉の黄緑色と
金色に染まる夕日
水平線の向こうには二つ 船が縦に並んではしっています

チリンと鈴の音がして、膝に柔らかで生き物が飛び乗った感触
緑の目と黒いからだの黒猫
緑の目に映る金色の夕日がきれいで


ねぇ、放っておけるひとになりたいと
昔は必死になっていたように思います

こころの奥が空っぽで
すごくすごく寂しくて

わたし、足りなさに苦しんでいました

ひとつずつ、すこしずつ

欠けた月をすこしずつはめ込もうとするみたいに

そうしていつのまにか

わたしは、昔の閉塞感をわすれて

ねぇ、今のわたしは、愛があるひとなんて口がさけてもいえないのに

わたしは、今、放っておけるひとになりつつあるように思います

足りなさに苦しまなくなって

それでなにか自分が変わったかというと

きっと


風がさわやかにわらいます


自由詩 さわやかにわらう Copyright 水菜 2017-09-15 22:01:52
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