秋窓
そらの珊瑚

月までは案外近い
いつか行き来できる日もくるかも、と
あなたはいうけれど
それが明日ではないことくらい
知っている
人は間に合わない時間が在ることを知っていて
間に合う時間だけを生きてゆく乗り物

虫の音が聞こえる
それも命を継いできた乗り物
わたしたちは秋に間に合い
半袖では少し肌寒い朝に
先に駅を降りてしまった人のことを想う

故郷の駅にはエスカレーターが備えられたけれど
足の悪い父がそこを利用することはもうないだろう
父の時間の中では今でも駅は
不便な階段で
改札口で切符を切る駅員がいて
ラッシュアワーには鋏で
途切れることのない
スタッカートなリズムを刻み
そこから仕事へ行き
仕事から帰ってくる場所

本屋だった店のシャッターには
白い埃が積もり続けている
人差し指でぬぐうと
そこだけ小さな窓になり
のぞいてみれば
エスカレーターが伸びてゆく

月へ行くための





自由詩 秋窓 Copyright そらの珊瑚 2017-09-08 09:40:17縦
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