黒いぐちゃぐちゃ爆弾
田中修子

わたしのお父さんには ふたつ 顔があります

男と同じだけ働いて 子どもを産んで 社会活動をしなさい
というお父さんの顔は真っ暗闇に覆われて
そばにいるのに目を細めていくら探しても
なんにも見えない 触れない

うちを守って 子どもを愛し 好きなことをできたらいいね
という顔は、とぼけていて、ちゃんとそこにある

お母さんは真っ暗闇に覆われたまま逝ってしまって
ほんとうになにも思い出せないのです
ぽっかりとあいたおそろしい穴ということだけ
「顔も体形もそっくりだね」と言われるけれど
家族の絵を描こうとするとあの人のところだけ
黒いぐちゃぐちゃ

よって、わたしも黒いぐちゃぐちゃ

かえして
わたしのだいすきな家族を
かえして
ふつうの日々を虚ろのようにのみこんだ偉大な理想なんか
かえせ
あんなものかたっぱしっからたたっこわしてやる

どんなにか、平和を祈りたかったでしょうか
なのに、あんなにもまっくらすぎて
焼夷弾がパっと火をつけてくれて
こわがりながら燃え上がれたら
あの家は少しは、あかるかっただろう、などど

わらいますか わたしを

このようなことをいったら

真っ暗なお父さんも真っ暗なお母さんも
ゴミをみるようにわたしをわらったのはかろうじてみえましたので

いまだ泣きも怒りもしない、すこしニヤついた
気味の悪い顔で
わたしはあなたをみあげています


自由詩 黒いぐちゃぐちゃ爆弾 Copyright 田中修子 2017-08-05 17:23:23縦
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