月には届かない
水宮うみ

孤独なんてものは感じ方の問題で、孤独でなくなることなんか簡単だ。
その気になれば、音楽と話をすることだってできるし、夜と手をつないで眠ることだってできる。
私たちは、あらゆるものを友達だと思うことができて、例えば私は孤独が一番の友達だ。
孤独の、暖かい手のひらをそっと握る。
孤独という友達がいるから、私は孤独ではない。

ある日孤独が言う。「月を見に行こうよ。」
私は言う。「なんのために?」
「君みたいな孤独な人間には、月を見るのが一番だからさ。」
孤独はまるで私のように寂しげに笑った。
「孤独じゃないってば」
「孤独なんかと友達になる奴は、孤独に決まっている」
ぐっと言葉につまる。
「どうせ孤独なら、月のように孤高になればいいんだ。」
「私は星じゃないわ」
「そういうことじゃない。」
孤独はふふっと笑う。孤独は孤独のくせによく笑う。
「月は、夜空にただ一人、佇んでいる。誰にも寄りかからずに、誰かに勇気を与えながら。素敵だと思わないかね。」
「人の憧れるものを勝手に決めないでくれる? 私は月に勇気をもらったことなんかないし、誰かに勇気を与えたいとも思わないわ」
「そうかい。けどまぁ、することもないし、見に行こうよ、月」
「玄関に出るだけなら」
私はそう言って、孤独とともに外に出る。
夜空を見上げると、月がまるで、ランプみたいに暗闇を灯していた。
なるほど。確かに、暗闇のような不安のなかにいる人は、この光をみて、安心するかもしれない。
そう思った。
月には届かないこの手が、孤独に届くのは不思議だ。
孤独にそう言うと、僕は別に宇宙に浮かんでいる訳じゃないからね、と言った。


散文(批評随筆小説等) 月には届かない Copyright 水宮うみ 2017-07-12 20:41:43
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