天動説の子ども
窪ワタル

天動説の子どもが増えてるらしいのですが
それはまったく自然なことです

地球が回っているのだとしても朝が来るのは退屈なのですから
僕はお布団で魚になって
箱舟に乗ったかあさんとはなしをします


火葬場で
さくっ と砕けたかあさんを
胸に抱えて帰るとき
空は雲ひとつない晴れた冬で
あまりに早く走りきってしまったかあさんは
空がこんなに広いなんてしらなかったろうとおもいました

それはまったく不自然なことです

骨壷を位牌の奥において
隣で眠ろうとしたのですが
お酒の力をいくら借りても
まるで眠くならないので
肺呼吸をわすれたのだとおもいました

骨壷を開けると
かあさんは頭から ちん と座っていて
頭蓋骨を一枚ずつ剥がして
喉仏をつまんでどけて
その下の小さな小さなかあさんの
かあさんの骨を
食べました
粉っぽくってざらついた骨は
簡単に砕けて
僕のものになりました

でもね かあさん
肺呼吸をわすれたままです

かあさんみたいに走れないので
僕は泳ぐことにします
上手く泳げなくっても
もう誰もお小言を言わないので安心です

それはまったく不自然なことです

僕は魚になります
それはまるで自然なことです

海の底は太陽が射してきても
冷たいので
地動説をわすれられるでしょう

それはまるで自然なことです











自由詩 天動説の子ども Copyright 窪ワタル 2005-03-09 15:48:09
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