富嶽
虹村 凌

もしも僕が蝉だったとして、あなたは八日目の歌声を聴いてくれますか?
もしもあなたが十六夜の桜なら僕は見向きもしないでしょう

明けない夜は無い
止まない雨は無い
でも来年は無いかも知れない気分で何かをする人たちが好きになれません
一瞬の中に永遠が無いのなら永遠の中に一瞬はありませんか

明日なんて来なければいい
雨なんて止まなければいい
それでも陽は昇り落ち折り返し自転は止まらず
俺が死んでも誰も困らず
いや、それは悲しいね
と愛想笑う

助けて下さいと言えたなら少しは違ってきたでしょうか
「月が綺麗ですね」とか「恥の多い人生」とか
「吉祥寺ドンキは焼かねばならぬ」とか言い出すんです
その方が辛いと言うのに繰り返すんです
助けてくださいと言えたのなら

美しいあなたが
名前も身分も失ってたった一人
誰かの為に動かすその肉体が美しい事を
確かめたくて僕は呼吸をするのかも知れません
それは僕を救う美しさでしょうか

美しさに屈服する姿はとても醜く
便所から見える富士山に泣いたあなたの気持ちが少しわかりました
あの山が恥ずかしくて泣いたあなたの気持ちが少しわかりました


自由詩 富嶽 Copyright 虹村 凌 2017-04-25 01:52:41
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