虹色のさかな
そらの珊瑚

針穴に糸が通った遠い日から
ずいぶんいろんなものを縫ってきた
時には
縫われることを嫌って
ぴちぴち跳ねて
てんでに海へかえってしまう布もいたけれど

人の営みのかたわらに
一枚のぞうきんがあったそうな
汚れを身につけ
洗ってもとれない汚れを誇る
そんなぞうきんが

年度初めに学校に一枚のそうきんを持っていく
そんなしきたりが日本に出来たのはいつからなのだろう
ぞうきんがタオルではなく手拭い製だったころからだろうか
母も、そのまた母も
小学校の長い廊下を競争のようにして
ぞうきんがけをしたのだろうか
高校三年生に進級する娘に
持たせるためのぞうきんを縫う
幾度か水をくぐったうすいタオルは
これからどんな汚れを身につけるのだろう
それはわたしが知りえないことだけど
いつか
あの広い海にかえっておいで
そしたら小さなループはうろこに変わるし
泪の跡はまなこに変わるだろう

たぶんぞうきんを縫うのは
これでさいごになるんじゃないかな
相変わらず縫い目はでたらめでそろってないけれど
せめてとびきり綺麗な虹色の糸で
おまえを縫ってあげよう




自由詩 虹色のさかな Copyright そらの珊瑚 2017-03-29 08:34:20
notebook Home 戻る