半真半偽
ピッピ

君が響いた夜、間違えてどこへとも知れず駆けだして行って、見えなくなって。聞こえなくなって。辺りには月でつくったカンテラがへんてこな影を見繕うばかり。おーい。哀しみとは、こんなもんだっけ?君の喋り方は、まるでテレビカメラを向けられている整った人達のように、理路整然としていて、やばんな言葉がニューロンをかけめぐっている僕はずっとうらやましいと思っていたんだ。マークバイマークジェイコブスのサングラス。よく分からない花のヘアクリップ。谷川俊太郎の詩を諳んじて、げらげら笑った、土曜日の夜。なんでも知っているから、分からないことがあったら聞いてね。って言うから、生理のしくみを訊いたらされた、すごく困った顔。ぶらぶらと歩いて、いいにおいがするなと思ったら、鶏の死んだのを、串に刺しているものがあったので、一つ買って。一人で食べる。おーい。君が、こうなっていないといいんだけどな。鶏の死んだのを、一人で食べるなんて、そんな寂しいことが、起こるような世界に、君の吐き出す二酸化炭素を、紛れされたくなくて。だから僕は。必死で。こんな美味しいものを。一人で食べるなんて。そんなこと、ないよな。僕のあたまの中に君がいて、世界はどこに行ったんだろう?僕のあたまの中は、世界を…体現しているものじゃなかったのか?君の声が…確かに空気をふるわせ…現象として起こっているのに…どうして目には見えないんだろう?いくつかの大事なことは…どうして全部…目の前に転がっていないのだろう?でも。もう君は応えてくれないさ。人生の答えは、世界の答えは、全てを知っている、この世を作った人が、もしいるのだとしたら…。きっと、いまごろ一人でごはんを寂しく食べているのだろう。そうして僕は、僕のあたまの中に消える。


自由詩 半真半偽 Copyright ピッピ 2017-01-24 11:50:58
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