心象風景二 きみとわたしと
田中修子

1.
色のない空をつんざくようにそびえたつ黒い山脈

真っ黒焦げになった数万の人々が
フライパンの上ゴウゴウと炒られて悲鳴をあげていて
それをしている巨人もまた
焼き爛れて狂って笑いながら
泣いている

数万の人々がわたしで
巨人は母だ

2.
炎を頬に感じながら悲惨の脇をとおりすぎ
黒い山脈を越える

月明りで歩ける浜辺
静謐をたたえる海
さざ波が白く
わたしは焦げたからだを引きずって
(そう、お化けのように
皮膚がつりさがる腕を前に突き出しながら)
ミズガホシイと海に沈む

なめらかになるからだ
深く 深くへ

銀の青の魚の影
赤い珊瑚や真珠貝を髪に飾り
たわむれる人魚たち

きれいな泡になり溶け行くわたし

3.
あなたは打ちっぱなしのコンクリートに幾重もの鉄の扉だ

わたしを抱きながら中をみたきみがそう囁く

きっとそちらが本当で
狂女のように泣き叫んだ

壊してそうして溶かしてと

そのときのわたしはカッと目がひらくそうだ

4.
いま、ジャングルだ

重いような甘い香りを漂わせながら咲き誇る赤い花々
目を打つように眩しい緑の葉

極彩色の蝶ににぎやかな鳥

喉を潤すに足る川、人を食う魚にはご注意だが

しめってしずかなあなぐらのなかで
わたしときみは抱き合ってねむっている
一瞬だが最高の安らぎを

5.
その眠りの中きみをみた

青いゼリーを星きらめく夜を
ひとの生きられぬ砂漠を亡者になり彷徨うきみを
あふれだしたけがされないであろう泉をみた

強いようで泣きじゃくる囁きをきいたのだ

6.
そうして、また、旅をはじめる

きみとわたしと

体が地と虫と空に溶けるまでの

永くありながら瞬きのような旅を


自由詩 心象風景二 きみとわたしと Copyright 田中修子 2016-12-14 21:45:32
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