漆黒に彩られた翼-陽鳥に捧げる唄-
りゅうのあくび

   
  

  かつて伝説の神話は
  太陽と宇宙のあいだにあった
  詩神と死神が共に生まれた太古の時代に
  灰色の空には詩神と死神が戯れあうために
  命の手紙を運ぶ陽鳥が飛んでいた
  



いつか死神が云った嘘のように
鳥は鳴く度に喉が渇いていた
寒い朝に太陽を迎えて
太陽が差す黒い影に消える鳥は
詩神ですらも死ぬだろうと想いながら

蒼空へ想いを馳せても
きっと灰色の空に飛び続けるだろう
切ない初冬が過ぎるあの日にも
小さな嵐が過ぎて逝った痕が
胸に痛みとして残りながら
まるで破れて干からびた
薬草の欠片を啄ばむみたいにして

不幸と幸福を察する孤独な天秤は
そう必ず釣り合いはしない
幸福はそれほどに軽いので
もちろん命の重さよりは
不幸がまだずいぶん軽いはずだとしても

夜空に馳せる鳥の鎖骨には
緩やかな均衡があるだろう
大地にある母なる巣から
誕生する生命より天空へ架ける夢を
天秤にある片側に置いた方がいいだろう
誰しもの夢には不幸と幸福ですら
ちょうど釣り合う軽やかさがあるように

まるで大空を駆け巡る夢を
馳せる想いとして測りながら
翼とは闇と光のあいだで生まれた
漆黒に煌めく天秤のことだろう
ふと天空から遠方に続く
大地を見渡しながら
羽ばたく翼をふわりと
双方へ伸ばして逝く
いつも翼は途方もない悲痛を隠していた
すらりと飛翔を描く軌跡は
まるで死神に宛て命の手紙を運ぶように
しっとりと手紙を
羽根のあいだに仕舞うようにして

やっと雨雲から抜け出すと
水滴が滴る翼の黄昏を拭うように
太陽が差す影には
きっと残された未来を
拒んだ過去がある

太陽に向かう旅立ちのとき
いつも炎に焦がされるみたいにして
悲しむ痕が風に沁みるとすれば
きっと透明な記憶は蘇えるだろう
宙に舞い続ける
儚い命の夢を届けようとする
暖かい翼は大空を抱きながら

ちょうど漆黒に耀く
羽根の刹那には
ひとひらの風だけが囁いていた
舞い落ちる詩神の唄とともに




※この作品はフィクションであり
実際の人物と団体とはまったく関係ありません。







自由詩 漆黒に彩られた翼-陽鳥に捧げる唄- Copyright りゅうのあくび 2016-12-06 21:02:47
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