わたしたちの豚
アンテ

ピンク色の
豚を飼っていた
あのころ
わたしたちはいつも
豚のことで
毎日のように罵りあった

朝も昼も晩も夜中も
ブゥブゥ鳴いた
楽しいときも
深刻に話しあうときも
寝ているときも
ブゥブゥ鳴いた
あなたとわたしは押しつけあって
どちらかが仕方なく
イヤイヤ餌をお皿に盛った
豚はブゥブゥ餌を食べた

床じゅうに糞が散らばって
家じゅうに臭いがしみついて
いるはずなのに
いつのまにか
なにも感じなくなって

わたしは豚をいじめた
あなたは豚を傷つけた
毎日まいにち

あなたについてきたんでしょう
おまえが連れてきたんだろう
毎日まいにち

あなたは仕事が忙しいと言って
毎日遅くに帰るようになった
玄関から音が聞こえると
豚は餌を食べるのをやめて
一目散に駆けていった
耳をふさいでも
ブゥブゥ鳴く声が聞こえた
ずいぶん長いあいだ
あなたは部屋に入ってこなかった
なにをしているんだろう
あなたは本当は
豚が好きなんじゃないか

わたしは
どうなんだろう

昼のあいだ
出かける用事も思いつかなくなって
なにをするのも
億劫になって
ブゥブゥ
ピンク色の豚は
わたしにまとわりついた
ブゥブゥ
餌が欲しいと鳴いた
ブゥブゥ
ブゥブゥ

ブゥブゥ

包丁で何度も何度も刺すと
豚は動かなくなった
思ったほど
血は出なかった
ピンク色の肉を骨からそぎ落として
鍋で煮た
食べられない部分は庭に埋めた
ごしごし手を洗って
終了
ブゥブゥ
鍋が湯気をたてて
シチューが大量に出来上がった
今日は何時に帰ってくるのだろう
ひと口味見してみると
案外おいしかった
わたしは台所でぼんやりと
お茶を飲みながら
ときどきシチューを味見した
山積みになった餌を
ひと口味見してみると
案外おいしかった
ブゥブゥ
鼻がひくひくした
玄関で音がするたび
そわそわした

あのころ




自由詩 わたしたちの豚 Copyright アンテ 2005-03-04 01:19:24
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