嫌になっちゃう
宣井龍人

いやになっちゃうであろうが
きらいになっちゃうであろうが
見映えも聞き映えもあまり良くない

ここは一応いやになっちゃうにさせてもらう

嫌になっちゃうと聞くのは嫌になっちゃうし
嫌になっちゃうと書くのも嫌になっちゃう

一昔前に挨拶代わりに使うおばさんがいた
母の友人であった
母が「こんにちは」と言うと
「奥様、奥様、嫌になっちゃう」
聞きなれた冒頭発言だ

道端でひょいと会おうが
我が家を訪れようが
同じシナリオが回っている
それもトイレに逃げたくなるほど長いのだ

中学生くらいだった僕と妹は聞き耳を立てた
何回聞いてもごく普通の話だ
どこが嫌になっちゃうのかさっぱりわからない
そのうち僕たちはおばさんの話を暗唱した

だが嫌になっちゃうは強烈な伝染力があるらしい
防衛軍を突き破って侵入してしまう
それも女性のことが大好きな憎い奴だ

今では僕が悩まされている
おばさんからもらった母の嫌になっちゃう攻撃だ
おばさんも誰かからもらったのだろう

「お早う」
「嫌になっちゃう」
「何が?」
「何から何まで嫌になっちゃう」
「どうして?」
「本当に嫌になっちゃう」

たぶん嫌になっちゃうが母を占領したのだろう
体のどこを覗いても奴が顔を出す
嫌になっちゃうの金太郎飴なのだ

外を眺めると景色が暗いグレーがかっている
街のあちこちで嫌になっちゃうが飛び交っている
マスクなど効果があるものか?

男に生まれて良かったけどなあ
街中嫌になっちゃうだらけ
いったいこれからどうなるんだ?

あ~あ嫌になっちゃう…


自由詩 嫌になっちゃう Copyright 宣井龍人 2016-11-14 00:02:35縦
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