フレンチトーストとピアノ弾き
りゅうのあくび

まるで天使の翼が
舞いながら
羽ばたくあいだのように
白い鍵盤は月明かりを
灯すみたいにして
黒い鍵盤は夜空に
溶け込んでいた

眩しい音色は鳴ることを
少し休ませながら
ようやく先生が
まだ異国にいたころの昔話を
弟子たちにしてくれていました

夜明けを待ちながら
ショパンを聴きたいとかで
近所にあるパン屋のマドモワゼルから
フレンチトーストを
差入れしてもらって
そのお礼にノクターンを
アップライトピアノで
弾いたときだったかしら

いつものように
独りで朝食を取るより
朝刊の新聞に書かれたNEWSを
知りたいこともあって
ちょうどマドモワゼルと
一緒に食事を取っていました
トーストの入った籠のなかには
びっくりするほど
大きなお月さまの
目玉焼きが乗っかっていました

随分と驚くNEWSが
届いたばかりでした
よく知っているピアノ弾きのことが
書かれていたのです
遠い街のショパン弾きと
どちらのピアノソナタが上手とかで
先生の先生でもあった
お師匠さまに決闘が
申し込まれていたのです
あくる日には果し合いがあることが
載っていたのです

都で随一のオーケストラを巻き込んで
コンツェルトが開かれる予定でした
勝ったらパンを1ヵ月分くれるって
記してあったから
もう当時は大騒ぎだった
あくる日の月夜は
とても大きな満月で
もう嬉しくなって
お腹もいっぱいになった気分でした

ようやく先生と弟子たちは
異国の都の味がするパンの
感触を想い出すようにして
フレンチトーストを
食べたばかりでした
そっと小さなワイングラスを
昔話の遠い夜空に傾けるようにして


自由詩 フレンチトーストとピアノ弾き Copyright りゅうのあくび 2016-11-05 22:52:41
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