漬物
春日線香

もう少し眠っていてもいいと
誰かが低い声で囁くのが
薄暗い夢の中でもわかる
本当にもう少しここで
眠っていてもいいのですか
念を押して訊ねてみると
その人は猫を撫でるような声で
眠っていてもいいんだよと答えてくれる
不安になったので少し目を開けて
隙間を手で探っていくと
生ぬるい糠床に指が触れる感じがあり
おそるおそる押し込んでみると
意外なほどにずぶずぶと沈んでいき
その感触に当惑しているうちに
もう助からなくなってしまうのだ
きゅうりやにんじん
大根やその他わけのわからないもの
皆とうの昔に古漬であって
そのどれにも
赤い箸が突き刺さっている


自由詩 漬物 Copyright 春日線香 2016-10-25 12:11:57縦
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