ノーマル・ライトニング
崎山郁

 
 随分経ったあとで、ふと思い出し、笑ってしまった


 誰かと何かを分かち合うことが上手く出来ないのは前から気がついていたけれど、何となくいつか出来るようになるんじゃないかと漠然と思っていた、レモンケーキが美味しく焼けるようになるように、スポンジケーキもきっとちゃんと膨らむようになるんだとか、お化粧が上手にできるようになったとか、そんなふうに
 だけどよく考えてみれば、どう努力するかがわからないものはやっぱりうまくいかないものなんだよねって、夏のベンチで友人に話してみたものの、恋愛なんか、運だよ、運、とか言われてしまって、だとすればするべきことは機会を増やすことと観察力の向上しかないじゃない、なんていうと、婚活すれば?と言われた だってあなたの職場、女性か既婚男性しかいないでしょ

 夏になったら、水着来て泳ぎにいく 裸に近い格好なんて、本当はあまりしたくない ただ水の側に行ってみたいだけだったり、日の光を肌に感じてみたかったり、それだけなんだけど
 この間はショートブレッドを作ってみた 美味しかった 
 それから今はヴァージニア・ウルフを読んでいる 本当はただそんなことを伝えたい 本当に僕のこと好きなの?って言われたくない 過剰な表現は苦手だけど、文章にすることならまだ可能だから3日に一度はメールしてたんだけど、何が悪かったのかわからない
 昔の彼女たちとか、付き合い方だったり、聞いたこともないし 会えない休日に何をしてたのかとか、尋ねることもない 用事がなかったら連絡しないだとか、電話しないだとか、多分距離感が違うんだろう、それに相手に合わせる気がないのがいけないんだろうな

 もうすぐ秋だよ 今年はもう終わりそうだよ 湖に二回も行ったよ 海外にも行ってPDジェイムスや、バラード、オールディスを読んで、音楽だとまたトム・ウェイツやアデルを聴いてる そういうのって心にひっそり閉まっておくのがいいんだろう 吉野さんが亡くなって、残念に思ったこととか、すぐ隣の同僚が泣いていたこととか、夜、虫の音がし始めたこと、息をひそめて
 
 川を歩いていて、白い道で転んだ この間は水が増量サービス期間で川辺を歩けなかった 自転車を盗まれたこと 傘を二度盗られたこと お酒飲み過ぎて吐いたこと ハムレットを読んでいる人を見つけたこと ゆっくりと過ぎていく、私は死に向かって歩いている 桜の葉が少しだけ黄色く赤くなっていってる まだ百日紅は咲いている

 私たちは重力に縛られている ように何かに縛られている お金だとか習慣だとか面子だとか、様々なこと 自由に生きているようでそうではないのね   
 また君に会いにいきたいと今日、思ったよ 会えたらいいね
 軽やかに、ささやかに


散文(批評随筆小説等) ノーマル・ライトニング Copyright 崎山郁 2016-09-22 03:42:50
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