僕とポケモンとGO
木屋 亞万

①はじめましてポケモン
1996年ポケットモンスターの赤と緑が発売される。
ポケットモンスター略してポケモン。
男の子が草むらに入るだけで危険だと止められる不思議な世界だ。
最初にゼニガメ、ヒトカゲ、フシギダネの三匹から、これから一緒に冒険していく仲間を一匹選べる。
草むらから現れる野生のモンスターは、モンスターボールで捕まえることができる。
捕まえたら名前をつけて育ててレベルを上げていく。中にはレベルが上がると進化するものがいて、戦闘後に挿入される進化のイベントに心をワクワクさせたものだ。
戦いの中でポケモンが死んだり弱ったりしたら、ポケモンセンターに連れていくと回復してもらえる。全滅すると最後にレポートしたところからやり直し。

最初に通り抜けるトキワの森にはたくさんの虫ポケモンと、ごくまれにピカチュウが現れてその珍しさに心躍らせた。
このポケモンがのちに、ポケモンの看板となるモンスターになるなんて、初めて会った時には思いもしなかった。

【以下雑な回想】
割と序盤に最後のジムやチャンピオンロード、ミュウツーが隠されてるしかけ。
ことあるごとに現れ、ほどよい強さで負けていくライバルの存在。
なぞの組織ロケット団。
出て来たらすぐにテレポートしちゃうケーシィ。
いあいぎりを覚えないと通れない木のある道。
どの町にも同じ風貌でいるポケモンセンターのお姉さん。
無駄に迷路みたいなポケモンジム。
はねるだけのコイキング、進化してギャラドス。ボロのつりざおではコイしかつれない。
寝てるだけで邪魔なカビゴン。起こすためにはふえがいる。
ゆうれい出てくるポケモンの墓。
景品目当てにギャンブルにはまる。
徒歩より自転車の快適さを思い知るときもあれば、そらをとぶ快感を知る時もある。
紆余曲折(かいりきで岩を押したり、飛ぶ段差を間違えると引き返してしまったり)を経て、四天王を倒す。殿堂入り。


クリア後もポケモンを集めたり、友達と通信対戦したりして一緒に遊んだ。
テレビアニメや、アニメ映画もヒットし、ポケットピカチュウやポケモンスナップなど関連するゲームも多く発売された。
テレビアニメのポリゴンの回に体調不良を起こす子どもたちがいて、それ以降テレビ番組のはじめに注意書きが流れるようになったなんてことも。
ポケモンも新しいシリーズが発売されるにつれ、白黒だった絵は、次第にカラーになり、モンスターの数が増え、絵の画質も上がっていった。
テレビに映すポケモンゲームではよりリアルになったCGのポケモンが動き、いろんな技を出した。
ただどれだけ楽しくプレーしていても、ゲームの電源を切ってしまえば、ポケモンの世界から私たちは帰って来なければならなかった。

②ポケモンGO
そして、2016年ポケモンGOが配信を開始した。
その画期的なところはポケモンが、私たちの世界に遊びに来るということだ。
カメラを起動するモードに切り替えたら、自分の部屋、通いなれた道、公園や神社にポケモンが現れるのだ。
名前こそポケモンGOだが、ポケモンたちがCOMEするゲームだ。
だから、ポケモン世代の人間を中心にして、大げさではなく世界が熱狂したと言っていい。

それは、どんな感覚に似ているのだろうか。
本の中でしか読んでいなかった台詞を、舞台で誰かが演じるのを目の当たりにしたときの、物語の世界が本から飛び出してきた感覚
あるいは
よく目にする東京の街並みが、テレビの中で巨大な怪獣によって破壊されていく様子に恐怖し、また興奮したときの感覚。
あるいは
それまで話で聞いたり、映像で見るだけだったおばけが、実際に目の前に現れたり、自分に迫ってきたりするのをお化け屋敷で体感するときの感覚。
あるいは
平面のものだった映像作品が、特殊な眼鏡をかけることで飛び出して来たり、映像に合わせて水をかけられたり、ねずみが足元を通り過ぎるようなしかけを感じたりしたときのような感覚。

いやそのどれもが体験を、よりリアルに体感的にしてはいるが、自分がその世界の中に入るというものだった。
今回は私たちの世界の方に、虚構のものがやってくる。ゲームから日常の世界に、ゲームの中のものたちが飛び出してくるのだ。
ゲームをプレイするフィールドが、ゲームの中に用意された作りものではなくて、現実の見慣れた街の地図の中に現れる。

爆発的に増えたプレイヤーの一部のマナーの悪さが目立ってしまったり、ゲームを含む新しいものに対して拒絶反応が出る人々の抗議や、危険性の過剰な警告によって、少なからず逆風の中にいるポケモンGO。
ゲームの世界へ没入するのではなく、ゲームの世界が現実に拡張していく、この発想の逆転がもっと評価され、ゲームに限らず虚構のものがどんどん現実世界へ飛び出して来たらいいのになと思っている。


散文(批評随筆小説等) 僕とポケモンとGO Copyright 木屋 亞万 2016-08-03 00:24:00
notebook Home 戻る  過去 未来