嵐の予感
木屋 亞万

夏はなぜ暑いのだろう
やさしさを失っていく熱風に
焼かれながら日陰の枯れた道を行く

墓の周りには
もはや草であることをやめ
木に仲間入りした太い雑草が
狂ったホウセンカみたいに
ニョキニョキとのびており
草を抜き切る前に
腰が抜けそうなほど

いつか大人になって
社会の役に立つ人間になれと
言われるたび心の中で
お前はどうなんだって唱えたが
ついに言い返すことはなく
墓の彼方へ旅立って行かれた

人間の役に立たない雑草は抜かれ
曲がって育ったキュウリは捨てられ
無名の魚は雑魚として処分され
飼い主に捨てられた生物は殺され
あるいは野に放たれ生態系をぶっ壊す
死んだ人間の言葉は忘れられてしまう
のか

生まれてすぐ死ぬ
卵のまま巣から落とされる
なにものにもなれず
なにごともできず
なんの役にも立てなかったものたちを
これ以上虐げる必要があるだろうか

誰かの思う価値がなくても
誰かの思う役にたたなくても
誰かの思う利益にならなくても
生まれてきていいのだと思う
生きていていいのだと思う
ここに存在することを
誰かにとやかく言われる筋合いはない

蝉は同じような声を共鳴させて
うるさく合唱しているし
墓石は鉄板焼きができそうなほど熱い
やさしさのない風が吹いている
遠くに入道雲が立ち
その中で雷が巻き起こる


自由詩 嵐の予感 Copyright 木屋 亞万 2016-07-30 23:47:41
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