八月の光景
イナエ

もう七二年も昔になりましたか
 第二次世界大戦が
 マスコミの話題になるとき
 浮かんでくる光景は

地方都市の国民学校3年生の教室
腕白な少年どもに囲まれて
おまえはスパイだと
小突かれていた級友がいた
通りかかった先生に腕白のひとりが言った
「こいつスパイだ
高射砲陣地を見つけたって」

先生は少年をじろりと見たが
何も言わず通り過ぎた

数日後 先生は授業で
ルソン島に上陸した米国の隊に
切り込んでいく兵士の話をしていた途中 
例の少年の何が気に入らなかったのか
軽々と持ち上げ床にたたきつけた
少年は涙も見せず堪えていたけれど

その後
ぼくの家は戦火に焼かれて
一家は山奥にある祖父の家に身を寄せた
先生は志願して戦場に行ったままと
聞いた

数年後 腕白どもは
野球少年に変身したらしく
夏の大会の選手として
地方新聞に名が出ていた

小突かれていた少年は
どうしたのだろう



自由詩 八月の光景 Copyright イナエ 2016-07-29 08:36:14
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