猫だった頃
梅昆布茶

「眠り猫」

眠りたかった
眠り猫のようにまるくなって
幸せな眠りの世界に入りたかった

好きだった
すべてを合わせても足りないぐらい
そのぶん言葉にできなかった


「猫の眼」

こころは瞬間から瞬間へと変化してゆく
外界の縁に触れて限りなく色をかえて

しあわせが柔らかな羽毛のように浮かんで見えようとも
それは微細な瞬間の集積なのだ

瞬間を充実させる努力がすべてであるのだとおもう

眼で見る
聞こえるおと
薫りを嗅ぐ
舌で味わうこと
身体で圧力や温度を感じる

そういった五感を綜合して
心として認識する

われ思うゆえにわれがあるのではないと思う
想いを喚起するのは感覚器官だ

猫の眼のように変わる

それが世界でありこころであり

瞬間をきちんとつなげて維持する力は
人によってちがうのだろう

こころは常に汚れてゆく
洗うことは難しいが

やさしく洗う流れがあるなら
それに従えばいい

それでも誰かを愛せるのなら
いつでも時間はやさしく
誰をも助けてくれる筈だろう

アベノ橋不思議商店街という古本コミックが好きだった
現実の大阪の阿倍野は再開発され
スカイタワーができたらしい

猫の眼のように変わる

それは素敵なことなのかもしれない

そういずれは広辞苑だって
流れに曝されて

変わってゆくのだもの


「猫でした」

猫でした
まちがいなくねこだったと思うのですが
定かではありません

幸せだったかもしれませんし
そうじゃあなかったかもしれません
宿無しだったのはたしかです

いまでもたいして変わりはしませんが
濡れそぼる夜はなくなったようです

また猫に戻りたいかときかれれば
まああれはあれで良かったかなと思うだけです

よく遠くのそらをながめていました
腹も減るものですが別の何かもさがしていたものです

からっぽの街で風の行方を追いかけては
光のあふれる季節をみつけようと彷徨いました

そう猫でした
いまでもその記憶が残っているのです




自由詩 猫だった頃 Copyright 梅昆布茶 2016-07-18 21:57:52
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