その男 どの男
……とある蛙


その男
生まれたときは貧相で、猿にも似た面立ちで
決して可愛い泣き方もせず、

その男
幼児となって生意気に
おさがりは嫌だと駄々をこね

その男
友も作らず師も知らず
世話をかけるのは父母ばかり

その男
そのうち母死に父も死に、唯一好きな姉も死に
妻死に 最後は一人きり



その男のその昔
親父の八ミリに写っている
誰が写したか親父と二人
満面の笑みを浮かべていたが、
親父に髪を引っ張られ
味噌っ歯をむき出しで痛がって、
そのまま別の場面へ転換

その男のその昔
いつまでたっても
僻みっぽく、友人のふりをして仲間入り
知らず知らすにずれはじめ
遊びはいつも鬼の役
もういいやとは思っても
日が暮れるまでは
オニの役

その男のその昔
いつもいつだって、いろいろ言われ
心が折れても仏頂面
人前で泣くことも無いくせに
そのくせホントは泣き虫で
泣き顔下向き家路をたどる、


その男はいま
たとえば気持ちは弱くなり
考えるほどに辛くなる。
誰も知らない 
誰にも言えない惨めさ辛さ
ごまかす積もりは無いのだが
忘れるために歩きだす。

残り少しの坂道を
その先にある青空に
ぽっかり浮かぶ雲を追いかけ

少しはましなエンディング
もし会えるものなら会いたくて


自由詩 その男 どの男 Copyright ……とある蛙 2016-06-22 14:07:21
notebook Home 戻る  過去 未来