香り
あおい満月

恋はね、鬱の一種なの。
そんなことばを教えてもらった。
恋ひとつで病気になれる、
そんなあなたが羨ましい。

狂おしいぐらいの恋を、
いつから休んでいるのか。
脳内麻薬はからっぽなのに、
眠れない夜の先にあなたがいる。

夏になると夢に見る。
裸の私を抱いているあなたの手を。
眠りを貪った先に、
たどりついた場所は無傷な部屋。

確かに見えるのは、
あなたとの間にある、
白いボーダーライン。
私はその肩にさえ触れることが出来ない

あなたに触れられないのに、
あなたの体温を感じる。
つめたくてあたたかい、
あなたの皮膚。

それは髪の毛の先まで、
しみついてとれない。
煙草の息の、
あなたの香り。

透けるように細い、
あなたの肩や腕が、
握っていた煙草の箱を、
私は忘れない。

できることならば、
私もあの煙草の箱になって、
あなたに握られたい。
握りつぶされて死にたい。



自由詩 香り Copyright あおい満月 2016-06-11 13:33:06縦
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