睡蓮池の畔にて
イナエ

  
昼間の火照りから解放された夕暮れ
ビルから流れ出た人たちが
睡蓮の群生する池の畔を帰っていく

池の畔のベンチに若い女が独り
睡蓮の花を眺めている

煉瓦色に夕焼けたビルを映した池に
逆さになった人が
池の畔を歩く人を追いかけていく

ベンチの女は
おにぎりを取り出しひとくち食べる
ハシブトカラスが一羽 池の畔に降りて
嘴を女に向け 羽をたたむ

逆さのビルの間から水鳥が二羽
ハの字を描いて睡蓮に向かう

ハの字は交差して池の面を揺らし
夕焼の空を揺し
ビルを揺し 
人も揺れて歩みが乱れ
池の畔の人からはぐれ

睡蓮は揺れることなく
はぐれた人を保護して
静かに佇んでいる
 
女も静かに睡蓮を眺め
おにぎりを
ぽつりと口にはこぶ

池のビルにひとつ灯火が揺れて
ハシブトカラスの嘴が
太くなったようだ           


自由詩 睡蓮池の畔にて Copyright イナエ 2016-06-06 09:34:05
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