摘果
イナエ

隣近所の思いを気にしながら育てる桃
摘花はほどほどにして花を愛でてもらい
消毒は風のない朝ひっそりと行い

花が過ぎて
ようやく形のできてきた実を摘果する
このときワタシは
親から切り離される子を思う心を断ち切り
理屈を付けて桃を食らうエゴをむき出しにする

 この実は成長が遅いから
 この実は付いた場所が悪いから
 この実は他の実と競合しているから

虫に喰われることも
人に喰われることもなく
生を終えてしまった子らを集め
ワタシは自分の手を眺める

 いずれ親に振り落とされると弁解しても
 より大きな より甘い桃を食いたいという欲求に応え
 幼い生を切り落とした無慈悲な手

眼を背けた桃の根元には
陽光を求めて花柄を伸ばし
数輪の花を付けたオダマキが虫を呼んでいる


自由詩 摘果 Copyright イナエ 2016-05-14 10:20:14
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