べんとう
北村 守通

温めないでください
ぼろが出てしまうんです
ぼろぼろになってしまうんです
不必要に熱くなって
不必要に口の中でちくちくと刺しまくるんです

冷たいままにしておいてください
それが
決しておいしいわけじゃぁありませんが
少なくとも
それよりも
まずくなることを防ぐことぐらいはできるわけです

放っておいてください
さわらないでください
変な調味料でべとべとにしないでください
あなたの好意を押し付けないでください
あなたの好みを押し付けないでください
あなたを押し付けないでください
あなたを
不用意に
近づけすぎないでください

私には
冷たいくらいが
丁度よいのです
私は
よりよくなることは望んでいませんが
より悪くなる可能性はできるだけ避けたいのです

   まぁ出されたら出されたで
   がまんくらいはしますが
   それは決して本意ではありませんからね

ですから
温めないでください
私は
あなたの人形ではないのですから

   とは
   面と向かっては言えず
   うつむいて
   できるだけ早く
   飲み込もうと
   口の中で
   接触する時間を短くしようと
   努力していたら
   温めた弁当が気に入ったのだと
   誤解されているが
   真実は
   面と向かっては言えないでいる
   


自由詩 べんとう Copyright 北村 守通 2016-05-10 00:22:29
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