水に浸かるボール
イナエ

グランドの脇の水路に
サッカーボールは半身を浸していた

昨日も今日も橋桁に寄り添って
沈むことも飛ぶことも出来ないで
流れることさえ出来ないで
水面に出た半身が陽に焼かている

赤耳亀が時々ヘディングして遊んでくれるが
人間の子どもは見ぬふりをして通り過ぎる

大人たちの手垢が黴びていたり
動物の排泄物の上を転がったりして
得体の知れない病原菌が
染みついているかもしれない

汚れたボールは捨てよう

新しいボールはほしい
人間の手垢の付いていない
生きものの臭い染みこんでいない
真っ新(さら)なボール
人間の生まれる前の真っ新な地球が

新しいボールを手渡された投手は
唾のついた掌でこねる
真っ新な地球も
誰かがこね回して汚すだろうか


自由詩 水に浸かるボール Copyright イナエ 2016-05-01 22:14:13縦
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