春眠暁を求めず
木屋 亞万

はだしでゆかをあるく
しっとりとつめたい
うすぐもりのふうけい

とても風が強いので
木という木がゆれ
腹黒い雲が急がされる

ガラス一枚越しに見ている
ここはとても安全で
雨も風もなくあたたかい

爪先を整えながら
朝の溶けていくのを待つ
きょうはずっと暗いままだろう

服を脱いでも
身体にまとわりつく
わずらわしさは消えず

水に浸しても
泡で洗っても
腫れ物は治らない

前髪を後ろでくくり
紙と文字の世界に身を投げる
誰も悪くない世界だと物語はつまらない

口の中をゴキブリで溢れさせ
目の水晶体を切り裂き
尻の穴から蛇を入れる

丹精込めた料理を踏みつけ
歴史ある物を粉砕する
刺激と憎悪で炙り出された世界を

あらわになった怒りだけが
本性だと信じ込む

やさしいはずだったものが
すべて剥され捨てられる

やわらかい空気を探して
鼻がもがいている

私の中にある汚い粒は
焼いても焼いても消えなくて
顔はしみだらけになった

鏡をみるたび濃くなる隈と
鋭さを失っていく顎の輪郭
呼吸は浅く少し苦しい

何もせずとも
部屋に埃がつもり
身体が少しずつ汚れていく
清潔に保つことに疲れて

今日も力尽きて眠る
明日はもう来なくていい


自由詩 春眠暁を求めず Copyright 木屋 亞万 2016-04-17 13:14:10
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