服部 剛

門の前はひっそりとして
呆けた顔で、立ち尽くす
襤褸着ぼろぎの男

雨の滴は、腕を濡らし
門柱に ぺちゃり と
白い糞はこびり、落ち

(この世を覆う、雨空に
 数羽の烏は弧を描き
 声は乾いて、木霊こだまする)

雨はざあざあ降り頻り
何処からか、ぬるい風は
人肉の腐臭を鼻腔に、運び

男の呆けた目の先に
頼りない一筋の
水墨画の道は
霞の掛かる幕の向こうへ

(光の門は…あらわれるのか)

いつしか門柱に凭れ、坐っていた
襤褸着の男は
開いた蜘蛛の掌で濡れた地べたを、押して
片膝をゆっくり立てた  






自由詩Copyright 服部 剛 2016-04-09 20:08:19縦
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