さくらがい
あおい満月

生まれては弾いていく、
いくつもの過去たちの脱け殻の
奥には必ず触れなくてはならない
真実がある。
その横たわる真実の瞼の裏側の、
顔を見つめなくてはならない。

目を閉じた瞼の裏に映った顔は、
私ではない知らない別の誰かの顔で、
微笑みに似た色の瞳を向けてくる。
その彼女は何かをくわえていた。
青ざめた小さく細長い何かを。
よくみるとそれは指だった。
それも私がよく知っている小指で。

左手に痛みを感じて、
目を覚ますと、
左手の小指に、
何かに噛まれた赤い痕があった。
あの瞼の裏の少女。
私はすぐさま古い引き出しから、
小学校の頃の卒業アルバムを開いた。
そこには、あの少女がいた。
仲良しだったYちゃん。
でも彼女は、
卒業してすぐに、
交通事故で亡くなった。
何故、彼女が夢に出てきて、
しかも私の左手小指を噛んだのか。

Yちゃんはいつも、
私の左手の小指を羨ましがっていた。
(Fちゃんの小指、サクラガイみたい)
そういって、
私の小指にピンクのマニュキアを
塗ってくれた。
Yちゃんが噛みついたということは、
死んでもなお、繋がっていたいという
魂のサインだったのではと、
私は感じている。

後日、私はYちゃんの眠る墓を訪ねた。
墓石に水をやり、手を合わせて
Yちゃんと対話した。
そのあとに見上げた空は、
桜色をしていた。
その向こうに私はかすかに、
七色の虹を見たのだ。


自由詩 さくらがい Copyright あおい満月 2016-04-05 22:08:04
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