春へ
藤原絵理子


道標のない坂道は 霧の中に向かって
砕けた岩が転がっている道端に 
明るい顔で タンポポが咲いている
白い羽を残して 飛び去る


ゆがんだ古時計を壁にかけても
もう元に戻ることはない 何も取り戻せない
ほの暗い殻の中で 半透膜ごしに見る
外は平穏に 笑い声と泣き声で均衡を保っている


分かれ道で選ぶたびに 何か忘れ物をして
ゆっくりしたいのに 急いでいる
大急ぎで ゆっくりしている


どっちにしたって いずれ春が来て 
咲くことを約束されている 娘たちの
心の奥に燃え残る 熾火が消えるのを待って


自由詩 春へ Copyright 藤原絵理子 2016-03-24 22:32:43
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