地獄
イナエ

   人は生死の境をさまようとき
   花園を見ると言うけれど
   地獄の蓋が開くという彼岸に
   見たのは色を失った現世だった

闇の空から眺めていた
墨色の広大な砂場には
まばらにかがやく銀色の砂つぶ

浮き沈みしている顔 顔 顔
口をOの字に開け何かを叫んでいる
が 声は聞こえない

今 鈍く光る流砂に
沈んでいったのは見知った顔
後に残った手が 
五本の指をひらひら振って
声も言葉も失った絶望の叫びを
吐きだし 振りまき
押しつぶされて沈んでいく

銀色の流砂と見えた物は
粉砕された骨の燐光か
音も光も呑み込む暗黒の砂粒に
練り合わされ燐光は消えていく

希望の見えない暗黒の空から
ワタシが眺めている
蛍光の粒が消えていく闇の中に
わたしの顔が沈んでいくのを


自由詩 地獄 Copyright イナエ 2016-03-22 10:07:44縦
notebook Home 戻る