雀始巣
nonya


雀始巣
すずめはじめてすくう


佐藤さんちの玄関の
パンジーの寄せ植えから
オハヨウを拾い上げて

鈴木さんちのベランダの
古い室外機の裏側から
サビシイを探し出して

高橋さんちの軒下の
自転車のバスケットから
イソガシイを掠め取って

田中さんちの屋上の
中華鍋のようなアンテナから
ツマラナイをほじくり返して

伊藤さんちの空っぽの
犬小屋の暗闇から
アリガトウを見つけ出せずに

渡辺さんちの郵便受けの
折り重なったDMの隙間から
サヨナラを引っこ抜いて

山本さんちの二階の
雨樋の割と迷惑な辺りに
僕は巣を作り始めている

えっ?

それって詩じゃないかって?

いやいやこれは巣だよ
マイスイートホームなんだよ
見てくれはそんなに良くないけれど
れっきとした暮らしの器なんだよ

やがて
卵が産まれ
雛が孵り
餌を運び
巣立ちを見守る
そんなありふれた色彩の
さりげない時間の流れを
そっと受け流す雨樋
じゃなくて巣なんだよ

えっ?

もしかしてまだ疑ってる?

中村さんちのカーテン越しに
見かけたことがあるけれど
その詩ってやつは
見映えがとても大事らしいね
中身は何が入ってるんだろう?
僕には皆目分からないし
分かる必要もないことだよね
だって僕は

雀なんだから





自由詩 雀始巣 Copyright nonya 2016-03-19 21:47:34
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