おまえが生まれた年に
佐々宝砂

おまえが生まれた年に
菜の花が庭にはびこって
それはそれはたいへんだったよ

おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
はじめてみる菜の花に
はじめて嗅ぐ菜の花に
目をまるくしたりぱちくりしたりした

おまえが生まれた年に
おまえのとうさんが
庭の杉の木を切った
大きな木だったから
切り倒したときは大きな音がしたよ

おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
大きな音にびっくりして
両腕をつきだしてあたふたするから
わたしはおかしくって笑ったものだった

おまえが生まれた年に
おおきな地震があって
おおきな津波がきて

おまえはまだ二ヶ月だか三ヶ月だかで
何もわかっていなかった

わたしも
何もわかっていなかった

わかっていないということだけわかってた

おまえが生まれた年にも
春はきて
庭にはいつになくたくさんの
菜の花がきいろく咲き誇っていたのだけれども


(2011.4月に書いたもの)


自由詩 おまえが生まれた年に Copyright 佐々宝砂 2016-03-11 09:30:07
notebook Home 戻る  過去 未来