桃始笑
nonya


桃始笑
ももはじめてさく


コートを脱いだら
沈黙していた鎖骨が
独り語りを始める

ポケットから出た
あてどない指先が
止まり木を探している

音符を思い出した
爪先が奏でるのは
メンデルスゾーンのイタリア

ふうわりと解けた
毛細血管を満たしていく
輪郭の不確かな母音

風のカーニバルが
前髪をさんざん弄んだ揚句
明るい色を忘れていくけれど

むず痒い粒子に
憑りつかれてしまった
優しすぎる粘膜がうらめしい

堪え切れず
遊歩道に轟かせた
くしゃみ



驚いて振り返ったあなたが
桃色に咲った




自由詩 桃始笑 Copyright nonya 2016-03-10 20:45:53
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