おろし
春日線香

空気がしんと冷たくて
部屋の家具は然るべきところにある
住人はどこにも見当たらず
先程から大根をすりおろす音だけが
悲しいほど陰気に響いている
緑色の毛むくじゃらの腕が
五本の指で大根をむんずとつかみ
卸金に押し当てて
大根は小さく小さく身を削られていく
この様子は誰にも秘められているが
人々が帰ってきた時
丼いっぱいに盛られた大根おろしを見て
惨劇があったことを悟るだろう


自由詩 おろし Copyright 春日線香 2016-03-08 01:41:15
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