時雨に
藤原絵理子


夢中になった歌集は 本棚で埃をかぶっている
覚えている言葉は もう何も動かさない
好きだった花が 色褪せて見える
もともと 好きでもなかったのかもしれない


紅をさす 鏡の中にいるのは
茫洋と遠いところを眺める 見知らぬ女
せめて翳った陽射しが集まるよう
去った人を想う けなげな自己憐憫


冬枯れた庭の戸を閉ざして
積もった枯れ葉に落ちる 時雨の音を聞いていた
誰も待ってくれてはいない 誰をも待ってはいない


雨上がり 午後の陽を浴びて 諦めは坂を下っていく
これでいいと呟いて 自分を偽りながら
不安は 野辺の名もない花と光の香にかき消される


自由詩 時雨に Copyright 藤原絵理子 2016-02-09 22:04:55
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