宇宙の人
やまうちあつし

その人が訪れる日は
土星がやけに大きく見える

少し浮かんだ革靴を履き
用心深くチャイムを鳴らす

緑の髪と白い皮膚

君は地球の人らしく
花瓶を出して花を活けたり
オムレツなどを作ってみたり

宇宙の人は
それらをいちいち
無表情で吟味している
まるで地球の鉱物を
採取しに来たというような
事務的な身のこなし

そしてだきしめる
言葉もなく
(ついでに意味も)
君を静かに
(けれどもふかく)

100円パークの料金が
800円を超えないうちに
飛び立ってゆく
未確認飛行物体
   
君はベランダから手を振る
伝えているのだ
地球の人は
こうして別れを惜しむものだと

ある時君の部屋で
宇宙の人が泣いていた
視線の先には
壁に貼られた
一枚の切り抜き
〈サモトラケのニケ〉
絨毯に滴る
琥珀色の涙
  
君は聞くことができなかった
どうしてそんなに
泣いているのか

地球のことなんて
なにひとつわからないのに

悲しいことなんて
なにひとつないのに


自由詩 宇宙の人 Copyright やまうちあつし 2016-02-04 13:43:59縦
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