kさんのこと
まーつん

今日は週一回の休日。家でまったりしながらこれを書いている。

 今の職場には、Kさんという先輩がいる。
 僕より二歳年上で、とても仕事ができる女性だ。
 物流の現場では、日々クライアントからの指示で商品を出荷する。
 だが商品の種類や数は流動的で、事前に予測しづらい。モノによっては千個以上の出荷があり、棚からピックし、各々を梱包しトラックのドライバーに渡す。この工程のそれぞれに、人員を適宜振り分け、全体の流れを指揮するということをKさんはやっていて、その立ち振る舞いはどこかサッカーの監督を思わせる風情がある。

 彼女のやり方には、ただ指示するだけでなく、相手の健康状態や心の様子を気にかけて、励ましや叱咤を与える面もあり、朗らかな笑顔で緊張を和らげ、時に冗談も飛ばす。多くの意味で成熟した女性だと思う。

 僕はこの人に片想いして一年ぐらいにはなるだろうか。
 彼女はいつも僕に優しいわけではなく、かなりきつい言葉を投げることもある。正直Sだなと思うこともある。それほど部下としての僕が突っ込みどころ満載だからということもあるのだろうけど…。期待に応えたくて、もっと頑張ろうと思う半面、一人の女性への想いに振り回される自分が苛立たしくもある。ただ、いつも彼女のことばかり考えているわけでもない。
 
 僕は音楽が好きで、趣味のギターに結構打ち込んでいる。演奏に手ごたえを感じたときは幸せな気分になれる。自分の幸せを異性との関係でなく、趣味や仕事に見いだせたらと思っている。人に弱みを見せたくないからだ。誰かに好かれたり嫌われたりすることに一喜一憂したくはない。だけど、なかなかそこまで強くなれない。どんなに音楽に没頭しても人恋しさが頭にちらつき、虚しさしか感じない時もある。

 Kさんは既婚者で、僕としてはただ思い焦がれるだけで、どうしようもない。彼女が休憩時間にいつも僕の隣に座ってくれるという、それだけのことに喜んでいる青臭い自分がいる。この職場は重い荷物や大型車を扱う関係上、体育会系の男たちが多い。いつも時間に追われ、荒っぽい言葉が飛び交うこともある。小柄で細身な体の彼女が、そんな環境に少しもひるむことなく立ち回る様子を見ると、やっぱり尊敬してしまうのだ。いつもは憎まれ口をたたいてしまう僕ではあるが…。 

゛大人の女゛の多くがそうであるように、彼女も僕が寄せる好意を知ってか知らずか、いつも困ったような優しい笑みを浮かべて見つめ返してくるばかりで、胸の内を見せてくれはしない。僕自身ももう若いといえるような歳ではない。ここは職場なのだから、特定の異性に明確な拒絶も親しみも見せないのは当然だけど。

 手の届かない相手なら、出会わないほうがよかった、と思うことはないだろうか? 僕は今そんな思いをかみしめている。


散文(批評随筆小説等) kさんのこと Copyright まーつん 2016-02-03 11:59:28
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