俺のゴール
いねむり猫

世界を締め出して
 かすかに囁く予感に 集中する

繰り返し 自分の正気を痛めつけながら 時間を飛ぶ 
自分だけが熱くこげる

それでも行き着くことができないゴール
ギャンブルの底の底で おれはまだ焦っている

焼けこげるエンジンの轟音は
地の底で 生皮をはがれる悪魔の悲鳴

競艇場の薄汚いトイレで
おれはまだ 何かと競っている

頭の中のどこかが むず痒い
鼻の奥の奥で 不快なものが焼ける匂いがする

指が細かく震える 
体は なえて 背骨だけで移動する
 転がり落ちながら 前に這う

ゴール前の歓声の向こうに
 垂直に口を開けている あのなじみ深い奈落
あの 世界の境界で 突き倒される 甘い恐怖

もう一度 もう一度 と 
快楽と苦痛を 瞬時に行き来する
黒く 艶々した 螺旋

わずかな酒でいい この震えを止めて 立ち上がるだけで
別に大穴でなくてもいい
次のレースにつぎ込むわずかな金を 握っていれば

まだまだやれる 
つかの間の 確率の夢に酔って 背骨が溶ける 
何度も 何度も 繰り返す度
新しく 鮮やかに 胸が焦げる

視界が一瞬冴えて 研ぎ澄まされる五感に
次のレースが映し出される 

遠くに 熱狂の獣たちの歓声が聞こえている 

いや あれは 
おれがしぼり出している悲鳴 なのか

長く高く 虚空に引き伸ばされて 
いつまでも消えない

 最後の 鋭いターンの その向こう
激しい水しぶきが 視界を塞ぐ その向こうに

 俺のゴールがあるはずだ



自由詩 俺のゴール Copyright いねむり猫 2016-01-17 17:02:20縦
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