卑怯者
春日線香
卑怯者が来るので座布団を新調した
それからお茶とお菓子、万が一に備えて酒も
しかし指定の時刻を過ぎても現れなくて
もうそろそろ外が暗くなってくる
冬の日は早い
次第に天気も崩れてきて
風に吹かれた棕櫚の葉が窓をこする
現れない卑怯者は
それだけで卑怯者の資格を満たしているが
彼とてそれが本意ではあるまい
新聞を左からめくって読み
折り返して右から読んで
棕櫚のざわざわいう音を聞いていると
自分も卑怯者の一人であることが思い出される
卑怯者が卑怯者を待つやりきれなさに
たいそう気が重くなり
黙って熱いお茶に口をつける