木屋 亞万


瓶を持っている
普段は隠しているけれど
常に持ち歩いている
中には液体が入っている

一人でさ迷っている
瓶の底に手をあてて
注ぐ動作をするなど練習を怠らない

栓はまだ抜いていない
一度開けたら閉じられない
気がして怖い

コルク式の古い栓だ
キャップ式ならよかった
簡単に開け閉めできるから

いつも瓶の中はたぷたぷに満たされている
爆発するほど溢れそうになると
ひとりでそっと中身を抜く
でもすぐにまた満たされる

中身は愛のようなものだ
愛のようだけど身体に悪い
飲むと病気のようになって
狂ったようになって
しあわせに包まれて
壊れていく
薄い毒だ

瓶は私にかけられた呪いだ
誰もコップを差し出してはくれない
誰にも注ぎましょうかと言えないのは
私の果実が成長しないまま傷んだせいだろう
ひとりぼっちの手の中で瓶を転がし眺めている

瓶を持っている
中は満ち溢れている
わたしはまだその注ぎ方を知らない
それがもたらす歓びを知らない
少ないながらそのまま死んでいく人もいる
わたしはきっと目的を果たせずに死ぬ人なのだろう


自由詩Copyright 木屋 亞万 2015-12-26 16:55:18
notebook Home 戻る  過去 未来