雪紙マイナス五度上の白詩人
千月 話子

染み一つ無い真白な紙を埋め尽くす
白い詩の燃え尽きた詩人よ
家中のペン先が折れ曲がる筆圧で
描く 角張った情景
放り出した原稿のマス目から
飛び出す遊び文字を拾い集めて
茹で上げる アルファべットパスタで
食べ尽くす 正午


十五枚目で挫折した
いつも、いつも 十五枚目だ!






ため息が凍りそうな曇り空の
明日アスファルトは雪の白板
何を書いても許される隠語の
断層化するという幻想
溶け出した皮膚文字を食べる
雷鳥の白く消え行く山頂
上に立ちて発する猥褻も
湾曲するヴィーナスの腰布に隠れて
香、放ち 風に揺れる
落丁したロマンス小説の
結末は白紙のままで
究極に達する前に逃げられる





言葉を足で踏みにじろうか
燃えさして 畑の土に蒔いてやろうか
雪上の中で冷静を保つ言葉なら育ち良く
来年の白カブは上出来だ


  完成した詩を食べ尽くす夜


傑作は発表されずに 血・肉・骨 で
いつもいつも 腹の中だ!






食べ過ぎた詩 溜め過ぎた言葉
未完成さえ人目に触れず
胃がキリキリと痛む深雪の朝
降りしきる雪に足を取られて
転がる衝撃に 破裂した
胃袋から溢れる血と言葉のほとばしる
白い雪紙に完成された詩歌の歓び
文字化けした所々を
除雪車が掬って行くのを
遠い目で追いながら
人々の集うざわめきと歓喜を聞いて
白い詩の 燃え尽きた詩人よ
あなたの残した数編が
あなたの名前だ!





と 誰かが叫んだ。






自由詩 雪紙マイナス五度上の白詩人 Copyright 千月 話子 2005-02-19 17:55:50
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