白雨
itukamitaniji
白雨
最初の一滴が頬にはじけて しまった、と思った
それから間もなく 街は音に飲み込まれていった
僕は慌てて逃げ込んだが もうすでにびしょ濡れで
傘を差して歩く人を うらやましく眺めていた
ぽつぽつと白雨は 夕方の街に降りはじめた
その一滴一滴に 街の風景を繰り返し閉じ込めて
どうやら抜け出すタイミングを 見失ったみたいだ
空を睨みつけて 完全に立ち尽くしてしまった
傘を持たずとも 勇ましく歩く人を遠くに見つけた
その人が僕に向かって 何か言葉を叫んでいたけど
何を言ってるのか 音にかき消され聞こえなかった
その姿は いつかの僕に似ているような気がした
しとしとと白雨は 夕方の街に降り注いでいる
抜け出せなくなった 僕を置き去りにするみたいに
歩いていく背中は 雨の向こうへ小さくなっていった
あの人みたいに ずぶ濡れても歩き出す勇気が僕にもあれば
今よりはもっと いさぎよく人生を歩けたのだろうか
そんな勇気を 今さら振り絞ることもなくなったのだ
ざぁざぁと白雨は 夕方の街に降り続けている
それはとてもきれいで 長いこと僕は見惚れていた
傘を差して歩く人 開き直って濡れながら駆ける人
そして雨宿りをする人 雨はすべてを飲み込んでいく
ほんの少しだけ 立ち止まっているだけと言い聞かす
この雨が上がったら 僕も遠くへ行けるだろうか
自由詩
白雨
Copyright
itukamitaniji
2015-12-04 22:52:38