12月のミニトマト
藤原絵理子


「6月に脇芽を差しておいたら大きくなった」
根元は気の毒なくらい細いのに 上は梅雨時のよう
緑の実をいっぱいつけて 木枯しに揺れている
他の作物は枯れ果てて 掘り返された畑の隅に


木枯らしが止んだら 青い月は冴え冴えと冷たく
けたたましかった土が しょんぼりしている
たくさんの気がかりを 飄々と片付けてきた背中
あたしはダイニングのテーブルで 母と とりとめないおしゃべり


テレビのニュースを見ながら ちびちびと
ウヰスキーを舐めている 髪の白さが
満足そうで 淋しそうで 声をかけるのを躊躇う


霜の降りた朝 実はほのかに色づいて
凛とした冷気に 初夏の趣 けなげに
引っこ抜けなかった 父のやさしさが輝いている


自由詩 12月のミニトマト Copyright 藤原絵理子 2015-12-04 21:43:20
notebook Home 戻る  過去 未来